動くことは生きること。生きることは動くこと。「昨日のカレー、明日のパン」
◆昨夜のカレー、明日のパン
◆内容
悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ―。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。(「BOOK」データベースより)
◆章
ムムム
パワースポット
山ガール
虎尾
魔法のカード
夕子
男子会
一樹
◆感想
亡くなった旦那「一樹」の父「ギフ」と、一樹の嫁・「テツコ」のを中心に織りなす物語。
私自身はまだ結婚をしたことがないので義父と嫁の距離感や関係性というものがわからないが、それでも二人の生活の様子をありありとイメージすることができた。
淡々としているようで、どこか優しい文体がとても印象的。切ないけれど、どこか温かい気持ちにもなる心地よい感覚。木皿泉作品はじんわりと心に染みこんでくる言葉や温度があって、元気がほしいときにまた読みたいと思わせる不思議な魅力がある。
大切な人が突然いなくなってしまった時のことを思い出しながら読んだ。みんな色んなものを抱えて生きていて、当然なのだけど乗り越え方も人それぞれ。心の中までは他人がどうこう出来るものではない。
辛いことがあっても世界は終わらないから、立ち止まってばかりはいられない。時とともに辛さが和らぐと同時に、その穴が少しずつ埋められていくことに罪悪感を覚えたり、忘れたくないのに忘れてしまうのではないかと悲しくなったりする。
私は小さい頃のことをあまり覚えていなくて、親が連れていってくれた場所も、つくってくれた物も、あまり覚えていない。忘れたくはない思い出なのに、思い出せないことばかり。とても申し訳なく思うのだけど、こればかりはどうしようもない。思い出は覚えている人の話を聞いて楽しむことにする。記憶はどんどん上書きされてしまうから、今を大切にしようという想いだけは忘れないようにしようと思う。
自分の足で歩いた後ろにしか道はできない。時には立ち止まったり思い出したりしながら、みんな一生懸命向き合って、もがいて、少しずつまた歩いてる。変わることもあれば、変わらないものもある。それでいいのだ、と思う。
心に残った言葉
「世の中、あなたが思っているほど怖くないよ。大丈夫」
「動くことは生きること。生きることは動くこと」